心臓神経症とは
胸が痛くて、どこにかかればよいか悩まれている方へ
このような方は、当院にお気軽にご相談ください。
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心臓の機能には異常がないにもかかわらず、胸の痛みや動悸(どうき)*1、息苦しさなど、心臓病のような症状が出る状態を心臓神経症と言います。
*1動悸……心臓が激しく鼓動したり、脈が飛んだりするように感じられること
心臓神経症は、心臓の病気というよりは、ストレスや不安、緊張などによって引き起こされる心因性の病気です。そのため、命に関わるようなことはありませんが、患者さまにとってはとてもつらい症状であり、「心臓が止まってしまうのでは」という極度の不安や恐れが、さらに症状を悪化させてしまうケースもあります。
心臓神経症になりやすい人は?
心臓神経症は、強い不安や過度の緊張など、精神的なストレスが、胸の痛みや動悸といった身体症状として現れるものと考えられています。
そのため、日常生活で強いストレスを感じている方や、環境の変化などにより不安や緊張が強い方、気分が落ち込みがちで、抑うつ状態にある方などに多く発症する傾向があります。
なかでも、物事に敏感なタイプで、自分の体の状態が気になってしまう方や、心臓病への強い不安をお持ちの方などが、過労やストレスをきっかけに発症するケースが多く見られます。
心臓神経症の症状
心臓神経症のおもな症状には、胸の痛みや圧迫感、動悸、息切れ、呼吸困難などがあり、手足のしびれや冷感、めまい、頭痛などを伴う場合もあります。 胸の痛みや動悸、息切れといった症状は、狭心症の発作でも起こることから、非常に間違われやすく、診断が難しい場合もありますが、心臓神経症の症状には以下のような特徴があります。
安静時に痛みが出る
一般的な狭心症発作の痛みは労作時(運動時)や興奮した時に起こることが多いですが、心臓神経症の場合、運動時よりも、安静にしている時に症状が出るのが特徴で、強い不安やストレスを感じた時には、さらに症状が強くなる傾向があります。
「ズキズキ」「チクチク」刺すような痛み
狭心症の痛みは、心臓全体をギューッと締め付けられるような痛みであるのに対し、心臓神経症の場合は、「ズキズキ・チクチク」など、「刺すような痛み」と表現されることが多いです。 また、症状が出るのは、左胸のごく一部に限られており、手で圧迫すると痛みが強くなる場合もあります。
痛みの持続時間が長い
一般的な狭心症発作は、10~15分程度で痛みが治まりますが、心臓神経症は、症状が長く続くケースが多く、患者さまによっては一日中痛みが続くような場合もあります。
精神症状を伴うことが多い
心臓神経症の場合、心臓の症状と併せ、抑うつ、強い不安感、不眠といったさまざまな精神症状を訴えられる患者さまが多いことも大きな特徴です。
心臓神経症の原因
心臓神経症の多くは、「自律神経の乱れ」が原因で起こると考えられています。
自律神経は、内臓の働きや代謝、体温などのコントロールをしている神経で、日中の活動時に優位になる「交感神経」と、睡眠などリラックスしている時に優位になる「副交感神経」が、アクセルとブレーキのように互いに働くことで、身体のバランスを保っています。
他の臓器と同様、心臓も自律神経の影響を受けることから、ストレスや不安、緊張などを感じると、交感神経が活発になり、心拍数や血圧が上昇して動悸を生じます。
通常は、副交感神経が働き、次第に元に戻りますが、非常に強いストレスを抱えていたり、不規則な生活を送っていたりすると、自律神経のバランスが崩れ、交感神経の興奮状態が治まらなくなってしまいます。このような状態が長く続くと、心臓の負担はさらに大きくなるため、胸の痛みや圧迫感、不整脈などが現れるようになります。
さらに、上記のような症状がたびたび起こるようになると、患者さまの意識は心臓に集中しやすくなり、「病気かもしれない」という不安が徐々に高まっていくことで、より症状が悪化するという悪循環に陥ってしまうケースもあります。
心臓神経症の検査・診断
心臓神経症の診断には、診察や検査がとても重要です。
診察では、聴診器で心臓の音を確認するほか、症状や発症時期、ストレスや生活習慣、生活の変化の有無などについて詳しいお話をお伺いします。
また、痛みの原因を調べるためには、検査が必要になりますが、心臓神経症を診断するための特別な検査というものはないため、心臓や消化器などの状態を調べる以下のような検査を行い、全ての検査結果が「異常なし」となった時点で、初めて「心臓神経症」と診断します。
胸部レントゲン
X線(放射線)を使用し、心臓の状態(大きさ、形など)を調べる画像検査です。
心電図検査
心臓から出ている微弱な電気を感知して、心臓の状態を調べる検査です。 狭心症や不整脈は、発作時以外には異常が出ないことがあるため、安静状態で行う標準的な心電図のほかにも、運動をして心臓に負荷をかけながら行う「運動負荷心電図」や心電図を24時間記録する「ホルター心電図」を行うこともあります。
心臓超音波検査(心エコー)
空気の細かい振動である超音波を使って、心臓の動きや構造の異常の有無を調べる検査です。
※エコー検査について
空き時間に検査を実施しているため曜日は限定しておりません
血液検査
心臓に負荷がかかる時に合成・分泌される血液中の「BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)」という物質を測定し、心不全*2の診断や重症度を判定する検査です。 また、動脈硬化のリスクを調べるための血液検査を行うこともあります。 *2心不全……心臓のポンプ機能が低下して、全身の臓器が必要とする血液を十分に送り出せなくなった状態
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
胸の痛みは、心臓以外にも胃や食道などの炎症で起こることもあるため、内視鏡を使って胃や食道の内部を詳しく調べます。
※他にも、胸痛発作が強く、狭心症との判別が難しい時には、症状が出た時に「ニトログリセリン*3」を服用してもらい、効果の有無により診断を行う場合などもあります。
*3ニトログリセリン……狭心症発作が起きた時に、使用する薬剤です。即効性のある舌下錠(舌で溶かす)であり、有効成分のニトログリセリンが粘膜から素早く吸収され、数分で症状を和らげることができますが、心臓神経症の痛みには効果がありません。
当院では胃カメラは実施しておりません。胃カメラによる検査が必要な場合には検査が可能な医療機関を紹介させていただきます。 |
心臓神経症の治療
心臓神経症の改善には、患者さまの不安と緊張を和らげることが必須になります。 まずは、患者さまご自身が検査結果を正しく理解し、心臓自体に問題はないということをご納得いただくことが重要です。心臓病への強い不安感をお持ちの患者さまには、少しずつ自己の認識を変え、不安を取り除いていく「認知行動療法」や「カウンセリング」が有効な場合もあります。
また、心身ともに症状が強く出ている場合には、それぞれの症状を和らげるための薬物療法を行います。
動悸が強い場合は、心臓の働きを抑える作用のある「β(ベータ)遮断薬」の内服、抑うつなどの精神症状が強い場合には、抗うつ薬や抗不安薬の内服などを行います。
当院では、診察や検査の結果から、必要と判断した場合には心療内科や精神科への紹介を行います。また、当院において治療が可能と考えられる場合には漢方薬を用いながら治療を行っていくこともあります。
生活上の注意
心臓神経症の改善または予防には、ストレスや不規則な生活によって崩れてしまった自律神経のバランスを整えることが大切です。以下のような点に気を付けて、日頃から規則正しい生活を送るように気を付けましょう。
バランスの良い食事を摂る
朝食を抜いたりせず、三食とも毎日できるだけ同じ時間に食べるようにしましょう。
偏食にならないように気を付け、栄養バランスの取れた食事を摂るように心がけましょう。
十分な睡眠をとる
夜型の生活や睡眠時間が不規則になる生活を改め、睡眠時をしっかりと確保しましょう。
就寝や起床の時間は、なるべく一定にすることが大切です。
適度な運動をする
適度に身体を動かすことは体の血流を良くし、ストレスの解消にも役立ちます。
ウォーキングやヨガ、散歩など負荷の強すぎない運動で、定期的に体を動かしましょう。
ストレスを発散する
スポーツや音楽鑑賞、ペットと触れ合う、植物を育てる、親しい人とのおしゃべりなど、ご自身がリラックスできて楽しいと思える時間を意識的に増やし、日々のストレスを溜め込まないようにしましょう。
よくある質問
胸の痛みや強い動悸は、心臓病の薬を飲めば効くのでしょうか?
心臓神経症の場合、狭心症発作の薬(ニトロ)では効果が得られず、抗うつ薬や抗不安薬で症状が和らぐようなケースも多く見られます。 痛みの原因が分からないというのはとても不安なものです。痛みの原因を突き止めるためにも、まずは検査を受けていただくことをおすすめします。
心臓神経症は、病院で治療を受ければ治りますか?
医療機関で行う薬物療法などは、症状の緩和に一定の効果が期待できますが、痛みの原因が、職場や家庭、人間関係の問題などのストレスや過労と考えられる場合には、ゆっくり休養を取る・環境を変えるなど、根本的な問題を改善し、できるだけストレスや不安を遠ざける生活にシフトしていくことが大切です