貧血とは
貧血とは、血液中の赤血球の数や、赤血球に含まれる「ヘモグロビン(血色素)」の濃度が低くなっている状態です。ヘモグロビンは、赤い色素を持つたんぱく質のことで、血液の赤い色はヘモグロビンに含まれる鉄(ヘム)の赤い色素によるものです。
WHOの基準では、貧血は、血液中のヘモグロビン値(血色素量)が、成人男性で13g/dL未満、成人女性で12g/dL未満と定められています。
ヘモグロビンの生成に必要な鉄などの栄養不足で起こる場合が多いですが、胃腸の吸収障害(正常に栄養が吸収できない)や、病気などによる出血が原因で起こることもあり、稀にがんなどの重大な病気が隠れているケースもあるため注意が必要です。
軽度の貧血や、ゆっくりと貧血が進行する場合には、自覚症状がないこともありますが、放置していると徐々に進行し、日常生活に大きな支障をきたすようになるため、症状がある場合はもちろん、健康診断で貧血を指摘された時には、早期に受診して詳しい検査を受け、適切な治療を行うようにしましょう。
貧血セルフチェック
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上記のチェック内容のうち①~④は、貧血の代表的な症状であり、⑤~⑩は貧血を引き起こすおもな危険要因です。症状と危険要因のどちらにも当てはまる項目がある場合には、貧血の可能性がありますので、一度、血液検査を受けることをおすすめします。
貧血のおもな症状
貧血の主な症状には、めまい、立ちくらみ、動悸、息切れ、倦怠感、集中力の低下、顔面蒼白(顔が青白くなる)などがあります。
赤血球に含まれる「ヘモグロビン」は、酸素と結びついて、身体の隅々に酸素を供給する重要な働きをしています。血液中の赤血球やヘモグロビンの量が減ってしまうと、身体の各臓器に十分な酸素が供給できなくなるため、顔色が悪くなる(顔面蒼白)ほか、めまいや立ちくらみ、倦怠感、集中力の低下などの症状が現れます。
また、心臓は、足りなくなった酸素を補うため、鼓動を早くして大量の血液を流すようになることから、動悸や息切れなどの症状を伴うこともあります。
ただし、貧血がゆっくり進む場合には、はっきりとした自覚症状が現れない場合もあり、気付かないうちに貧血が進行してしまう場合もあるため注意が必要です。
※上記以外にも、貧血の種類(原因)によって特有の症状を伴うこともあります。(詳しくは「貧血の種類」をお読みください)
貧血の種類
貧血は、何らかの原因で赤血球やヘモグロビンを十分に作り出せなくなった時や、血液中の赤血球やヘモグロビンが減ったり、壊れたりした時に発症します。貧血には、おもに以下のような種類があります。
鉄欠乏性貧血
ヘモグロビンの生成に欠かせない鉄の摂取量が不足し、ヘモグロビンが作れなくなることで起こる貧血です。貧血の多くがこのタイプで、特に女性に多く見られるのが特徴です。
偏食や欠食、無理なダイエット、食生活の乱れなどによる栄養不足で起こる場合が多いですが、妊娠中や授乳中、思春期などに、鉄の需要量が急激に増加して起こる場合もあります。
また、月経過多や消化管の病気(痔や消化器の潰瘍、がんなど)による過剰な出血、胃の切除によって鉄分の吸収が悪くなって起こるケースもあります。
鉄欠乏性貧血の場合、めまいや立ちくらみなどの貧血症状以外にも、爪が白くなって割れやすい、髪が抜ける、肌荒れ、氷を食べたくなる(氷食症)などの症状が現れるのが特徴です。
巨赤芽球(きょせきがきゅう)性貧血
赤血球の生成に欠かせない葉酸やビタミンB12が不足して起こる貧血です。
赤血球などの血液は、骨の中にある「骨髄(こつずい)」という組織で作られますが、まず、最初に「赤芽球(せきがきゅう)」という赤血球の基になる細胞が作られて、細胞分裂を繰り返していくうちに成熟した赤血球が完成します。
この時に使われるのが葉酸やビタミンB12であり、これらのビタミンが不足すると、正常な赤血球ではなく、「巨赤芽球(きょせきがきゅう)」という未成熟の大きな赤血球が作られてしまうため、貧血状態に陥ります。
巨赤芽球性貧血は、ベジタリアンや妊婦さんなどに多く見られる貧血ですが、胃の全摘をしている方や萎縮性胃炎(胃炎が長期化し、胃粘膜が薄くなってしまう)の方に起こることもあり、このように胃粘膜の異常や胃酸の減少による吸収障害で起こるものは「悪性貧血」と呼ばれます。
巨赤芽球性貧血の場合、めまいや立ちくらみなどの貧血症状以外にも、手足のしびれ、味覚障害、白髪、食欲不振、胃腸症状、抑うつなどを伴うのが特徴です。
再生不良性貧血
何らかの原因で、血液を作り出す骨髄の働きが低下して起こる貧血です。
血液中のすべての細胞を作り出す「造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)」が減少するため、赤血球だけでなく、白血球や血小板も減少するのが特徴です。
遺伝のほか、特定の薬剤、放射線によって起こる場合などがありますが、その多くは原因が特定できない突発性で、国の難病指定を受けています。
再生不良性貧血の場合、めまいや立ちくらみなどの貧血症状のほか、発熱や出血を伴うのが特徴です。
腎性貧血
腎性貧血
腎臓の働きが悪くなることによって起こる貧血です。
腎臓では、骨髄に赤血球を作らせる指示を出す「エリスロポエチン」というホルモンが作られています。重度の腎臓病などで腎臓の機能が低下すると(腎不全)、エリスロポエチンの分泌量が不足し、十分な量の赤血球が作られなくなることから貧血状態に陥ります。
腎性貧血はゆっくり進行することが多いので、身体が順応し、めまいや立ちくらみといった貧血の自覚症状が比較的軽いのが特徴です。
溶血性貧血
血液中の赤血球が通常より早く破壊されてしまう(溶血)ことで起こる貧血です。
赤血球の寿命は通常120日程度ですが、薬の副作用や免疫異常のほか、肺炎などの感染症にかかったり、激しいスポーツを日常的に行っていたりすると、赤血球が寿命よりも早く溶血してしまい、貧血状態に陥ります。
溶血性貧血の場合、めまいや立ちくらみと言った症状のほか、皮膚や眼球が黄色くなる(黄疸)、尿がコーラのような褐色になる(褐色尿)のが特徴です。
貧血の検査・診断
貧血の診断には以下のような検査を行います。
診察 自覚症状の有無やその内容、発症時期などを詳しくお伺いするとともに、脈拍、体温、血圧などの測定を行い、身体の状態を確認します。
血液検査
貧血の有無を確認するため、採血をして以下のような赤血球の値を調べます。
ヘモグロビン濃度(Hb)……血液中に含まれるヘモグロビンの濃度
赤血球数(RBC)……血液中に含まれる赤血球の数
ヘマトクリット(Ht)……血液中に占める赤血球の割合
WHOの基準では、ヘモグロビン濃度(血色素量)が成人男性は13g/dL未満、成人女性や小児は12g/dL未満、高齢者は11g/dL未満の場合が貧血と定義されています。実際には、赤血球数やヘマトクリットなどの値も参考にして総合的に診断します。
その他(原因を調べる検査)
基本的な血液検査で、貧血があると診断された場合には、貧血の原因を調べるため、より詳細な血液検査を行うとともに、必要に応じて以下のような検査を行います。
※下記の検査については提携病院への紹介となります。ご了承ください。
内視鏡検査
先端に小型のカメラが付いた細いチューブを挿入して、胃や腸など消化管の状態(炎症や潰瘍、がんの有無など)を調べます。
骨髄検査
骨の中にある骨髄を調べる検査で、血液の病気やがんなどが疑われる時に行います。
骨髄検査には、骨髄の中の血液を採取して調べる「骨髄穿刺(こつずいせんし)」と骨髄の組織を採取して調べる「骨髄生検」があります。
遺伝子検査(DNA検査)
遺伝子の持っている情報を解析し、病気にかかるリスクや体質などを調べる検査です。
貧血の治療
貧血の治療はそれぞれの原因によって異なります。
栄養素不足で起こるものは必要な栄養素の補給を行い、病気によって起こるものは、原因となる病気の治療を優先して行います。
鉄欠乏性貧血
不足している鉄を内服薬や注射で補います。
内服薬には、錠剤とシロップタイプがあり、妊娠中や授乳中でも服用可能です。
服用すると、吸収されなかった分の鉄が排泄されるため、便が黒っぽくなりますが、身体への影響はありません。
服用開始後、通常、2~4か月程度で、赤血球やヘモグロビンの数値に改善が見られ、自覚症状も落ち着きます。ただし、すぐにやめてしまうと貧血を再発するため、症状が改善した後も2~3か月程度は、薬の服用を続ける必要があります。
※過多月経の方は閉経まで鉄剤の服用を継続する場合もあります。
なお、これまでは、鉄剤の服用中にタンニンを含むもの(濃いお茶など)を飲むと、吸収が悪くなると言われていましたが、最近の研究で、吸収力に大きな差はないことが分かってきたため、飲み過ぎなければ、それほど気にする必要はありません。
巨赤芽球性貧血
葉酸が不足している場合には、葉酸の内服を行い、ビタミンB12が不足している場合にはビタミンB12の内服を行います。鉄剤同様、しばらく服用を続けることで、赤血球の数値が改善し、自覚症状も和らぎます。ただし、手術で胃の摘出をしている場合には、生涯に渡り、服用していただく場合もあります。
その他の貧血
貧血の原因となる病気の治療を優先して行います。
消化器の潰瘍やがんによる出血などが見つかった場合には、手術が必要になる場合もあります。また、溶血性貧血、再生不良性貧血などが原因の場合には、輸血や免疫抑制剤の服用、抗がん剤による治療など、専門的な治療が必要になります。
当院では、専門的な治療が必要と判断した場合、速やかに提携病院を紹介いたします。
貧血の予防
貧血の中でも、一番多い鉄欠乏性貧血は、毎日の食事で予防することが可能です。
汗や尿などの代謝により、1日に成人男性で約1㎎、成人女性で約0.8㎎の鉄が失われています。また、鉄は吸収率が悪く、摂取した食品に含まれる鉄分の5~10%しか吸収できません。よって、日頃から意識して鉄分の多い食品を摂取する必要があります。
食品に含まれる鉄には、肉やレバー、赤身の魚などの動物性食品に含まれる「ヘム鉄」と、野菜や海藻、穀類などに含まれる「非ヘム鉄」の2種類があります。構造的にヘム鉄の方が吸収率は良いですが、動物性食品と植物性食品を組み合わせて摂ることで非ヘム鉄の吸収率もアップすることが分かっています。
さらに、貧血の予防には、鉄以外にも、ヘモグロビンの材料となるたんぱく質や、鉄の吸収を高めるビタミンCなどを併せて摂るのが効果的です。牛肉やレバー、カツオなどは鉄だけでなく、たんぱく質も多く含んでいるおすすめの食材です。さらに赤血球の生成に必要な葉酸やビタミンB12を含む食品なども積極的に取り入れ、栄養が偏らないよう、バランスよく食べることが大切です。
≪参考≫貧血予防のために積極的に摂りたい栄養素
鉄分(ヘム鉄) | レバー(豚、鶏、牛)、赤身肉、カツオ、マグロ、イワシ、アサリ |
鉄分(非ヘム鉄) | 調整豆乳、納豆、大豆、小松菜、春菊、ほうれん草、のり、ゴマ、ヒジキ |
たんぱく質 | 牛肉、豚肉、鶏肉、レバー、カツオ、卵、牛乳、ヨーグルト、大豆 |
ビタミンC | 緑黄色野菜、キウイフルーツ、イチゴ、レモン、イモ類 |
葉酸 | レバー、ほうれん草、アスパラガス、ブロッコリー、納豆、モロヘイヤ |
ビタミンB12 | レバー、チーズ、のり、アサリ、シジミ、牡蛎 |
よくある質問
なぜ女性は貧血になりやすいのですか?
女性は、月経による定期的な出血があることや、ダイエットや偏食などの食習慣や食の嗜好などが深く関係していると考えられています。
また、女性の場合、ライフステージによっても影響を受けやすく、思春期には、急激な成長に伴い鉄不足に陥りやすいほか、妊娠中や授乳中には赤ちゃんに栄養を送るため、鉄の需要量が増大します。さらに子宮筋腫などの婦人科系の病気によって出血が多くなるケースもありますので、定期的に検査を受けるとともに、日頃からバランスの良い食事でしっかり鉄分を摂取するように心掛けることが大切です。
鉄剤を飲むと気分が悪くなりますが、飲み続けたほうが良いですか?
鉄剤の内服を開始すると、吐き気や腹痛、便秘、下痢などの消化器症状が現れる場合があります。その多くは一時的なもので、しばらく続けていくうちに身体が慣れ、症状も自然に軽減しますが、いつまでも症状が続き、服用が難しい場合には、食事療法やサプリメントによる治療を検討する場合もあります。症状がつらい時には、我慢せずに医師にご相談ください。