心肥大と心拡大の違い
健康診断や検診後に以下のようなご質問をいただくことがあります。
・そもそも心臓って、大きくなったり小さくなったりするものなの?
・もし心臓が大きくなるとしたら、それって何かまずい病気のサインなの?
・何か調べた方がいいのか?
・何も症状ないんだけど……。
「心臓が大きいと言われたことがある。これって心肥大ですか?」と聞かれることはよくありますが、「心拡大ですか?」と聞かれることは、実はあまりありません。ただ、この心肥大と心拡大は、厳密には違うものになります。
「心肥大」という言葉は耳にしたことがあっても、逆に「心拡大」という言葉は馴染みが薄いのかもしれません。
- 心肥大は、心臓、特に心室の壁の厚みが何らかの原因で厚くなったことを指します。
- 心臓が大きい時には、「心拡大」と表現します。
健康診断で指摘を受ける場合は、通常レントゲンでの心臓の大きさが基準よりも大きかった場合に「心臓が大きい」という指摘になります。よく見てみると、「心拡大」と書いてあると思います。
この基準とは「CTR」と言って、これは心胸比、つまり胸の幅に対する心臓の幅の比が50%を超えた場合に、「心拡大」つまり「心臓が大きい」と表現します。
なので、通常の健康診断で指摘される「心臓が大きい」というものは、「心肥大」ではなく、「心拡大」のことを指します。
拡大は、あくまでも全体の大きさですので、大きくて壁が分厚い場合は、「心拡大」および「心肥大」の状態であると言えます。
心臓の役割
心臓は血液を全身に送り出すポンプの役割をしています。心肥大や心拡大の説明を詳しくしていく前に、そもそも心臓がどんな働きをしているのかをおさらいしていきましょう。
心臓は全身に血液を送り出すポンプの働きをしています。
血液は体重の約1/13の重さと言われているので、例えば体重60kgの人では、約4.5Lの血液があると言われています。
心臓は1日約10万回拍動して、この血液を体中に送っています。
心臓はポンプと言いましたが、実際にはゴム風船のように血液を心臓に溜め込んで膨らみ、膨らんだ心臓が縮もうとする力を使って血液を送り出しています。この働きを心臓の筋肉が行っています。心臓はゴムではなくて、伸び縮みできる筋肉でできています。
心臓に負荷がかかり続けると、血圧が高い、心臓の弁膜症などが該当します。心臓は筋肉でできているので、この筋肉に負荷がかかりすぎると、筋肉が分厚くなってきます。
例えば、厳しいトレーニングを行っているスポーツ選手は、運動時に激しく全身へ血液を送り出すために、心臓も鍛えられて筋肉が分厚くなります。これをよく「スポーツ心臓」と言っています。
その他、心臓の出口が狭くなっている「大動脈弁狭窄症」といった弁膜症であったり、心臓を出た後の圧が高すぎる「高血圧」、こういったもので心臓に負荷がかかり、心臓が分厚くなります。他にも、「肥大型心筋症」などの心臓の筋肉自体の病気もあります。こうして筋肉が肥大したものを「心肥大」と言います。
心臓の筋肉が発達して分厚くなるとどうなるの?
心臓の筋肉が発達して分厚くなることは、一見いいようにも思えるんですけど、実際には筋肉は一般的に内側にだんだん筋肉がついていくため、中のスペースが減っていきます。
そのため、心臓の拍出量、いわゆる押し出す血液の量を確保するために、心臓自体を外に広げていきます。心臓は大きくなり、「心拡大」の状態になります。「心肥大」プラス「拡大」といった状態になってしまいます。
大きくなった心臓を動かすためには負荷がかかるため、だんだん心臓も疲れてへたってきてしまいます。これが「心不全」を起こした状態になります。また、肥大した心筋は通常の心臓よりも不整脈を起こしやすいという特徴もあります。心臓に血液が通常より多くある状態になると、心臓というゴム風船は膨らんだ状態になります。これが「心拡大」です。
心拡大の原因
心臓が大きくなってしまう「心拡大」の原因には、どのようなものがあるでしょうか。
一つは心臓弁膜症、「僧帽弁閉鎖不全症」「大動脈弁閉鎖不全症」などが該当します。
弁膜症によって心臓の部屋を区切る弁に逆流がある場合、心臓はせっかく前に押し出したはずの血液が逆流として一定数戻ってきてしまうので、それを再度押し出す必要があります。
すると、元々押し出す予定の血液に加えて戻ってきた血液も押し出す必要があるため、余計に心臓に負荷がかかる状態になります。実際、溜まる血液量も多くなるので、心臓が膨らんだ状態になります。
その他にも、心臓の部屋と部屋を区切る壁がつながっておらず、心臓のどこかの壁に生まれつき穴が開いている「シャント性心疾患」という病気もあります。「心房中隔欠損症」や「心室中隔欠損症」といった病気があります。
弁の逆流と同じで、一度通過した血液がその穴を通って再度手元に戻ってきてしまうため、実際に送り出さなきゃいけない血液の量が増えることになってしまいます。
また、さまざまな原因から心臓がポンプとして十分に機能できなくなってしまう「心不全」の状態になると、心臓内の血液が十分に押し出されなくなってしまい、心臓に血液が過剰に残ってしまう状態になります。
心肥大や心拡大の評価方法
心肥大や心拡大の評価として行うことについてお話しします。
心拡大はレントゲンがきっかけで疑われることが多いですが、その原因はレントゲンだけでは分かりません。また、心肥大は特に初期の段階では、心臓の筋肉が厚くなっても大きさは正常のことがあるので、やはりこちらもレントゲンでは分かりません。
どちらの評価にも、心臓自体を画像で評価できる心臓のエコー検査(超音波検査)が効果的です。心エコーでは、弁膜症の評価や程度、心機能、心筋の厚さなどが評価可能になります。
「心臓が大きい」と言われた場合、いろんな病気が隠れている可能性があります。症状がないから精密検査は必要ないと考えずに、自覚症状がない時点でもすでに心臓の障害が起きている場合もあり得ますので、健康診断で異常が出た段階で、循環器内科の専門医による精密検査を行ってみてはいかがでしょうか。
それぞれの原因によって対処の仕方は異なってきます。
ただ、健康診断で異常があっても、レントゲンなどの評価のため、例えば原因が明確でなかったり、他の原因で実際には大きな問題がないこともあります。
ただ、やはり心エコーで分かる情報は多いので、放置せずに原因を調べて対策を取るようにしていきましょう。