徐脈性不整脈とは
徐脈性不整脈とは、心拍リズムの異常によって起こる不整脈の中でも、拍動が極端に遅くなったり、間隔が伸びたりするもので、1分間の拍動が50回未満になる状態を徐脈と言います。
心臓の拍動は、日中の活動時に増え、夜間や安静時は減るという具合に、一日の中でも変動し、自律神経によってコントロールされています。特別な自覚症状がなく、一時的に脈が遅くなるだけなら心配ありませんが、心臓の機能低下や何らかの病気などで起こる徐脈性不整脈は、めまいや息切れ、失神を伴うことがあり、思わぬ事故や突然死につながることがあるため注意が必要です。
徐脈性不整脈になりやすい人は?
- 心臓病(心筋梗塞、心筋炎など)の方
- 過去に心臓の手術を受けた方
- 脈拍に影響する作用を持つ薬を飲んでいる方
- 高齢の方(65歳以上)
※上記以外にも、持久力が必要な運動を長期間行っているアスリートなどの中には、徐脈になる方がいらっしゃいます。これは「スポーツ心臓(アスリートハート)」と言われ、トレーニングによる健康的な変化であり、少ない拍動で全身に十分な酸素を運ぶことができるようになったためで、自覚症状がない場合は、治療の必要はありません。
徐脈性不整脈の原因
心臓は4つの部屋(右心房、左心房、右心室、左心室)に分かれており、一定の間隔でポンプのように収縮と拡張を繰り返すことで、脳や全身に血液を送り出しています。 この規則的なリズムは、右心房にある「洞結節(どうけっせつ)」という部分で作られ、心臓内に張り巡らされている「刺激伝導系(しげきでんどうけい)」と言われる電気の流れで制御されています。
このように心房と心室が正常に連動し、一定のリズムで動いている状態を「洞調律(どうちょうりつ)」と言いますが、徐脈性不整脈は、何らかの原因で、電気信号が作られなくなったり、伝達の途中で止まってしまったりすることで起こります
病的な徐脈を引き起こすおもな要因には、加齢による心臓の機能低下や、心臓や甲状腺の病気、薬の副作用などがあります。刺激伝導系の働きは年齢とともに低下するため、高齢になるほど徐脈性不整脈の発症は増加します。 また、心筋梗塞や狭心症などの心臓病をお持ちの方も、二次的に刺激伝導系の不具合が起こりやすくなるほか、甲状腺ホルモンの低下によって起こる「甲状腺機能低下症」も徐脈の症状を伴うことが分かっています。 さらに、心臓の電気の発生に影響を及ぼす薬剤の副作用として徐脈が起こる場合もあり、一部の降圧剤や抗うつ薬などのほか、抗不整脈が効きすぎることで徐脈になるケースもあります。
徐脈性不整脈のおもな症状
徐脈性不整脈になると、心臓の拍動が減り、運動や日常生活に必要な酸素が全身に行き渡らなくなるため、以下のような症状が現れます。
- めまい
- 眼前暗黒感(目の前が急に暗くなって血の気が引いたようになる)
- 疲労感
- 労作時の息切れ
- 失神
心臓が必要な血液を送り出せず、脳の血流量が急激に減少すると、めまいやふらつきが起こり、重症の場合には失神することもあります。このように不整脈に伴う失神は「アダム・ストークス発作」と言われ、意識を失った瞬間にどこかにぶつかって大けがをしたり、交通事故にあったりするケースもあるため、注意が必要です。
また、徐脈が長期に及ぶと、心臓の機能は徐々に低下して心不全の状態になります。少し動いただけでも疲れを感じたり、息切れしたりするようになり、いつまでも回復しないような場合には死亡することもあります。
徐脈性不整脈の種類
徐脈性不整脈は以下の二つの種類があります。
洞不全症候群(どうふぜんしょうこうぐん)
電気信号を出す洞結節の細胞に異常が生じ、電気が作られなくなった状態です。 洞不全症候群には、「洞性徐脈」「洞停止」「洞房ブロック」「徐脈頻脈症候群」の4種類があり、持続して起こる洞性徐脈を「Ⅰ型」、洞停止や洞房ブロックを「Ⅱ型」、徐脈頻脈症候群を「Ⅲ型」と分類します。
洞不全症候群の場合、心臓が停止してそのまま死亡するようなことはありませんが、徐脈が長期に及ぶと、心不全のリスクが高くなる上、失神時のけがや事故の可能性があるため、症状がある場合には治療を行います。
型 | 名称 | 病態 |
Ⅰ型 | 洞性徐脈 | 拍動が1分間に50回以下になるが、洞結節には異常がない。 必ずしも病的なものとは限らず、無症状であれば治療の必要はなし。※睡眠中の一時的な徐脈や運動選手の「アスリートハート」なども含まれる。 |
Ⅱ型 | 洞停止 | 一時的に洞結節からの電気信号が停止する。 |
洞房ブロック | 洞結節で発生した電気が心房に伝わらない。 | |
Ⅲ型 | 徐脈頻脈症候群 | 徐脈と頻脈が合併した状態。心房細動などの頻脈性不整脈が停止した後、洞結節からの電気信号がなかなか再開しない。 |
房室ブロック(ぼうしつぶろっく)
心房から心室への中継地点である「房室結節(ぼうしつけっせつ)」の機能が低下し、洞結節からの指令が遮断されて伝わらない状態(=ブロック)で、重症度によってⅠ~Ⅲ度に分けられます。ⅠまたはⅡ度のブロックは、病的なものではなく、生理現象として起こることがあるため、症状がない場合は治療の必要はありません。しかし、房室ブロックの場合、原因となる病気が隠れていることも多く、心筋梗塞や心筋症のような病気が原因でⅡ~Ⅲ度の房室ブロックが起こった時には、極端に拍動が低下してそのまま心臓が停止してしまうケースもあるため、治療が必要になります。
重症度 | 病態 |
Ⅰ度 | 心房から心室への信号の伝わる時間が正常よりも遅くなっている状態。心拍数の減少はなく、通常通り血液の供給も行われているため、治療の必要はなし。 |
Ⅱ度 | ウェンケバッハ型:心房から心室への信号の伝達が徐々に長くなり、一瞬、信号が途絶える状態。通常、治療の必要なし。 |
モービッツⅡ型:心房から心室への信号が突然途絶える状態。 ウェンケバッハに比べ、より危険性が高くなる。 | |
Ⅲ度 | 心房から心室への信号が完全に途絶えている状態。「完全房室ブロック」とも言われ、突然死の危険性もある。 |
徐脈性不整脈の検査と診断
徐脈性不整脈の検査には以下のようなものがあります。患者さまの状態に合わせて、必要な検査を行います。
心電図検査
心臓で発生する電気刺激を波形として記録する検査です。
まずは、健康診断などでも行われる標準的な心電図検査「12誘導心電図」を行いますが、一時的に起こる発作性の徐脈は発見できないこともあるため、身体に装置を取り付け、24時間連続して測定を行う「ホルター心電図」や、最大7日間の計測が可能な「Heartnote」という機器を使用した検査を行うこともあります。
また、原因の分からない失神発作を何度も繰り返し、心臓病との関連性が疑われる時には、「植込み型心電図(ループレコーダー)」による検査が必要になる場合もあります。これは、胸の皮下に小さな装置を埋め込み、長期間(約3年)に渡り心臓の状態を監視し続けるもので、不整脈発作が起きた時の記録を取ることが可能です。ループレコーダーの検査が必要と考えられる場合には、近隣の提携病院をご紹介いたします。
心エコー(超音波)検査
超音波を使用して、心臓の大きさ、形、動き、ポンプ機能の異常がないかなどを調べます。
胸部レントゲン検査
X線を使用して、心臓の大きさや形の異常がないかなどを調べます。
EPS検査(電気生理学的検査)
電極の付いた数ミリの細い管(カテーテル)を足の付け根などの静脈から挿入して心臓に運び、先端に付いている電極で不整脈を誘発して拍動の状態を記録します。入院して行う検査になるため、近隣の提携病院をご紹介いたします。
血液検査
採血を行い、心臓以外の臓器の異常や感染症の有無などを調べます。
ヘッドアップティルト検査
自律神経の働きを調べる検査で、心臓などの検査を行っても診断ができない失神の場合に行います。検査台の上に寝ていただき、検査台に傾斜をつけた状態で45分程度維持し、その間の状態を記録することで自律神経の調節異常の起こりやすさを確認します。 近隣の提携病院での検査となりますが、外来で行うことが可能です。
徐脈性不整脈の治療
徐脈性不整脈の場合、直ちに命に関わるようケースは少ないため、症状がなければ基本的に経過観察となりますが、失神や息苦しさ、ふらつきなどの自覚症状がある場合には治療を行います。
治療では、まず、徐脈の原因を取り除くことを優先します。内服している薬剤が原因と考えられる場合には薬の服用を中止し、原因となる病気がある場合には、まずその治療を行います。
このように原因を取り除いた上でもなお、徐脈症状が改善しない場合には、心臓の周辺の皮下にペースメーカーを埋め込む治療を検討します。
ペースメーカー植込み術
ペースメーカーとは、心臓に一定のリズムで電気刺激を与え、人工的に心臓の収縮を起こさせる装置です。局所麻酔を行った後、利き腕とは反対側になる胸の上を小さく切開して装置を埋め込み、静脈から心臓内に細い電線(リード)を入れて繋ぎます。ペースメーカーが自分の脈の代わりに電気刺激を出し、適切な拍動を保てるようになるため、健康な人と変わらない生活を送ることが可能になります。
最近では、装置が小型化し、電線のない「リードレスペースメーカー」も登場しています。リードレスペースメーカーは、皮膚を切開することなく、足の付け根などからカテーテルを使って直接心臓内に装置を置くことができるため、より患者さまの身体への負担を減らすことが可能です。
なお、ペースメーカーによる治療は、原則、徐脈による症状がある場合に行われますが、重症の房室ブロックの場合は症状がなくても治療が必要と考えられています。
ペースメーカー植込みが必要になる基準の目安
- 徐脈により失神を起こす場合
- 息切れやだるさが強く日常生活に支障をきたす場合
- 1分間の心拍数が40以下(心不全のリスクが高い場合)
- 4秒程度の心停止がある
- 原因となる薬剤が、病気の治療に必要不可欠で中止できない場合
- Ⅲ度の房室ブロック(無症状の場合含む)
生活上の注意
頻脈、徐脈に関わらず、不整脈が起こる場合には、食べ過ぎや飲み過ぎ、喫煙など心臓に負担のかかる生活習慣を見直し、バランスの良い食事や規則正しい生活を心掛けましょう。
ストレスや過労、睡眠不足は、自律神経を乱し、不整脈の症状を悪化させることがあるため、十分体を休めるとともに、こまめにストレスの発散をしましょう。
また、重症の徐脈の方は、めまいや失神が起きた時に、けがをする可能性があるため、車の運転や高所での作業などには十分な注意が必要です。
ペースメーカーの植込みを行った場合の注意
ペースメーカーは精密な医療機器です。いつまでも快適に使用していただくためにも植込みを行った患者さまは、以下のようなことに気を付けましょう。
○脈拍のチェックを行う
装置が正しく動いているかどうかを確認するため、毎日、同じ時間に脈拍の測定を行いましょう。
○定期健診を受ける
装置の状態や電池の残量などを確認するため、3~6か月程度に一度は医療機関で定期健診を受けるようにしましょう。
○電磁波を避ける
ペースメーカーは電磁波の影響を受けて誤作動を起こすことがあります。 ご家庭内や日常的に使用するものの中でも、身体に直接電気を通すものや、強い電磁波を出すものはできるだけ使用を避けましょう。
電磁波の影響が少ないもの | 冷蔵庫、掃除機、食洗器、洗濯機、テレビ、ラジオ、ステレオ、ビデオ、DVDプレーヤー、パソコン、電子レンジ、電気こたつ、電気毛布、ホットカーペット、ウォシュレット、電動工具、電車、自動車、電動自転車、血圧計、補聴器、体温計、心電図など |
電磁波の影響に注意が必要なもの | 携帯電話、炊飯器、IH調理器、モーターおよびモーター使用機器、配電・分電盤など |
電磁波の影響が大きいもの | マッサージ器、体脂肪計、金属探知機、アマチュア無線、高/低周波治療器、CT、MRIなど。 |
○ペースメーカー手帳を携帯する
ペースメーカーの植込みをされた患者さまには、「ペースメーカー手帳」が渡されます。 手帳には、使用している装置の情報や緊急連絡先などの患者さまの情報を記載する欄があります。万一、意識を失った時などにペースメーカーを入れていることが周囲に分かるよう、常に携帯してください。
よくある質問
徐脈性不整脈は、薬物療法で治すことはできますか?
薬物療法で徐脈性不整脈を根本的に治すことはできません。軽度の方は薬でコントロールできる場合もありますが、徐脈による症状がある場合には、原則、長期間に渡り安定した治療効果を得られるペースメーカーの植込みが必要になります。
患者さまの状態により、心拍数を増加させるための薬剤(交感神経作動薬、アトロピン、テオフィリン、シロスタゾールなど)を使用することもありますが、その効果は不安定で、別の不整脈を引き起こすリスクもあるため、基本的には、ペースメーカーを入れるまでの一時的な治療として使用するケースが多いです。その他、お身体の状態からペースメーカーを入れることができない方や、患者さまのご意思により、リスクやQOL(生活の質)を考えた上で、中長期的に薬物療法を行う場合もあります。
※テオフィリン、シロスタゾールは、徐脈性不整脈の治療では保険適用がありません。
ペースメーカーを入れた場合、旅行に行くことはできますか?
- 飛行機に搭乗する際、ペースメーカーが金属探知機の影響を受ける可能性があるので、ペースメーカー手帳を携帯し、係員にご提示ください。(手帳は海外の空港でも有効です)
- 自動車の運転については、可能かどうか医師にご相談ください。車やバイクは、エンジンをかける時に大きな電流が流れ、一時的にペースメーカーに影響を及ぼす可能性がありますので特にご注意ください。また、急ブレーキをかけた時にシートベルトがペースメーカーに衝撃を与える恐れがあるので、植込み部にはあらかじめクッションになるものを当てておき、圧迫を予防しましょう。
- 温泉などのお風呂やサウナが、ペースメーカーに影響を及ぼすことはありませんが、熱いお湯に入ったり、長湯をしたりすると心臓に負担をかけますので、10~20分程度の入浴に抑えましょう。 なお、銭湯などにある電気風呂(低周波電流が流れている浴槽)は、ペースメーカーの誤作動につながる恐れがありますので注意が必要です。