• 主に高齢者で、長く続く咳やたん、倦怠感などの症状がある場合に考えなければならない病気です。

    レントゲンや痰の検査、血液検査などで診断することが可能なため、こういった症状がある場合には放置せずに受診を考えましょう。

肺結核とは

肺結核は、「結核菌」という細菌が肺の中に入り込んで感染を起こす病気です。
感染者の咳やくしゃみから排出されて空気中に漂う結核菌を吸い込むことで感染し、発病すると咳や痰、胸の痛み、発熱などの症状が現れるのが特徴です。

肺結核は、潜伏期間が数か月~数十年と非常に長く、初期症状も一般的な風邪とよく似ているので、見つかりにくいケースも少なくありません。しかし、放置して症状が進行してしまうと、命に関わる上、周囲に感染を広げてしまうリスクも高くなりますので、十分な注意が必要です。

2週間以上続く咳や痰は、肺結核を疑うサインと言われています。原因不明の咳や血が混じった痰、微熱が出るような時には、早期発見、早期治療のため、できるだけ早く受診して検査を受けるようにしましょう。

日本国内の結核患者数

結核は、HIV/エイズやマラリアと並び、世界の三大感染症の一つと言われており、世界では毎年1000万人が新たに結核を発症しています。

結核は、適切な治療をしないと、感染した方の約半数が亡くなってしまう怖い病気です。
日本国内でも、1950年頃には不治の病として恐れられ、多くの方が亡くなっていましたが、現在では、医学の進歩により、完治も可能になっています。

当時に比べ、国内の結核患者数は大幅に減少しましたが、未だ完全には制圧できていない状態で、国内では毎年15,000人程度の方が新たに結核を発病し、約2,000人の方が命を落とされています。*1
*1 2019年 結核登録者情報調査年報集計結果について
厚生労働省の調べでは、2019年に新しく結核を発症された患者数は14,460人、結核による死亡者数は2,088人となっています。

国内の結核患者の多くは高齢者ですが、近年、東京や大阪などの都市部では、若年層の感染・発病も増えてきています。また、アジアやアフリカなど、結核患者の多い地域から入国された外国籍の方の発症も目立つようになっているなど、引き続き油断のできない状況が続いています。

肺結核の症状

肺結核のおもな症状は、咳や痰、血痰(痰に血が混じる)などの呼吸器症状と微熱です。胸の痛みや冷や汗、倦怠感、食欲不振、体重減少などを伴うのが特徴ですが、初期のうちは軽い風邪のような症状が続く程度で、目立った自覚症状がない場合もあります。

結核菌の増殖が進むと、肺の中には空洞ができ、気管支を介して肺の中の病変部分が広がるとともに、リンパ管や血管を通して全身にも広がるようになります。最終的には、肺の組織の大部分が破壊されてしまって呼吸困難に陥ったり、他の臓器の機能が失われてしまったりするため、命に関わるケースもあります。

結核の感染と発病

結核菌は、感染しても、すぐに発病するとは限りません。
抵抗力の弱い乳幼児や、病気で免疫が落ちているような方は、感染後、数か月~2年くらいの潜伏期間を経て発病することがありますが(初感染発病と言います)、健康な方の場合、結核菌が侵入しても、体内に免疫が作られ、結核菌を抑え込んでしまうため、発病には至りません。

しかし、感染した結核菌は死滅しておらず、肺の中に留まり休眠している状態です。加齢により体力が低下したり、何らかの病気で免疫機能が働きにくくなったりすると再び結核菌は増殖を始め、感染後、何年も経ってから(長い時には数十年後に)肺結核を発病することがあります。これを既感染発病と言います。
なお、結核に感染した人の中で実際に発病するのは、30%程度と言われており、結核菌に感染していても一生発病しない場合もあります。

肺結核の原因

結核菌は、「抗酸菌(こうさんきん)」と言われる細菌の一つで、人や一部の動物の体内でのみ分裂・増殖し、「空気感染(飛沫核感染)」するのが特徴です。

発病した人の咳やくしゃみのしぶきに含まれた結核菌(飛沫核)は、すぐに落下せず、ふわふわと空気中を漂い続けます。周囲にいる人がその飛沫核を肺の奥深くまで吸い込み、肺の中の「肺胞(はいほう)」という部分に小さな病変ができることで、結核の感染が成立します。なお、手をつなぐ、同じ食器を使うなどで感染することはありません。

結核菌は、消毒薬や乾燥には強い反面、紫外線にさらされると死滅する性質があります。
そのため、最初は発病者の家族や親しい友人など、ごく身近な人の間で感染が起こることが多いですが、感染者を介して学校や職場などに感染が広がると、時には集団感染を招くこともあります。

結核のほとんどは、このように空気感染によって起こる肺結核ですが、リンパ節、腸管、骨などの肺以外の組織に感染して発病するケースもあり、これらはまとめて「肺外結核」と呼ばれています。

肺結核の検査・診断

肺結核の検査は、結核菌の感染の有無を調べる目的で行われるものと、結核の発病を調べる目的で行われるものがあり、それぞれ以下のような種類があります。

結核の感染を調べる検査

ツベルクリン反応検査

「ツベルクリン」という特殊な試薬(ヒト型結核菌の培養液から分離精製した物質)を注射して48~72時間後に皮膚の変化を見る検査で、結核菌に感染している場合には皮膚が赤く反応します。
ただし、BCG*2を受けた場合でも同じように陽性反応が出てしまうため、他の検査で結核菌が見つからなかった場合などに、補助的な検査として行われています。(乳幼児の検査にはツベルクリンが優先されることもあります。)
*2結核菌の重症化を防ぐための予防接種。定期接種となっているため、現在、日本国内では1歳までにBCGを受けることが定められています。

血液検査(インターフェロンガンマ遊離試験:IGRA)

採血を行い、血液中に結核菌に対する抗体があるかを調べる検査で、「QFT(クォンティフェロン)」検査とTスポット検査という二つの種類があります。 ツベルクリン反応検査のようにBCGによる影響を受けないため、精度が高いのがメリットですが、感染が判明しても、結核を実際に発病しているかの区別は難しいことから、他の結核検査と併用して行う必要があります。

結核の発病を調べる検査

画像検査(胸部レントゲン)

レントゲン撮影を行い、肺の中の状態を確認します。
画像に白く映る影があると、肺に何らかの異常(病巣)ができていることが分かりますが、肺炎などでも同様の陰影が映るため、他の結核検査も併せて行う必要があります。
※レントゲン検査で疑わしい影がある時には、必要に応じ、CTスキャンなどの精密検査を行う場合もあります。

細菌学検査(喀痰検査)

喀痰(かくたん)検査は、痰を採取し、結核菌を見つける検査です。喀痰検査には、おもに以下の3つの検査があります。

塗抹(とまつ)検査

採取した痰を「抗酸菌」に反応する特殊な試薬で染色し、顕微鏡で菌の有無を確認します。 痰以外に胃液などを採取して行う場合もあります。塗抹検査は、短時間(30分程度)で手軽にできるのがメリットですが、細菌量が少ないと検出できないこともあるため、通常は3回繰り返して検査を行います。また、塗抹検査では、抗酸菌の種類の特定ができないため、培養検査などと併用して行います。

培養検査

採取した痰を培養して細菌を増殖させ、見つけやすくする検査です。抗酸菌の種類まで判定できることから、肺結核の確定診断に使われるほか、効果の高い治療薬を見つける(薬剤感受性)ためにも有効な検査です。
ただし、結核菌は増殖スピードが非常に遅いため、結果が出るまでには時間がかかり、薬剤感受性まで調べると6~8週ほどかかります。

遺伝子検査

採取した痰の中から細菌の「DNA(デオキシリボ核酸)」を取り出して特殊な方法で増幅させ、結核菌の検出や種類の特定を行う検査です。少量の菌で行うことができ、短時間で結果が出るのがメリットですが、「疑陽性(感染していないのに陽性反応が出る)」や「偽陰性(感染していても陰性になる)」になるケースもあることから、培養検査などと並行して行います。

肺結核の治療

肺結核の治療は抗結核薬(抗菌薬)による薬物療法を行います。
抗結核薬には10種類以上の薬剤がありますが、よく使われているのは、以下の薬剤です。

≪おもな抗結核薬≫

  • リファンピシン(RFP)
  • イソニアジド(INH)
  • リファブチン(RBT)
  • ピラジナミド(PZA)
  • ストレプトマイシン(SM)
  • エタンブトール(EB)

上記の薬剤は、単独で用いると治療中に薬剤に対する耐性ができやすくなります。そのため、治療を開始する前には、薬剤感受性検査を行って結核菌に有効な薬剤を選択し、3~4剤を併用して治療を行います。

現在は、「リファンピシン」と「イソニアジド」を中心とした治療が標準となっています。
最初の2か月は、リファンピシン、イソニアジド、ピラジナミド、エタンブトール(もしくはストレプトマイシン)の4剤を服用し、その後の4か月は、リファンピシンとイソニアジドの2剤を服用します。
しかし、副作用などでこれらの薬剤が使用できない場合には、別の組み合わせの薬剤で治療を行うこともあります。

肺結核の服薬方法と治療期間

結核菌は非常にしぶとい細菌のため、自覚症状が無くなった場合でも、治療が終了するまできちんと薬を飲むことが大切です。途中で服用を止めてしまうと、完治が難しくなるだけでなく、薬剤に耐性を持つ結核菌(多剤耐性結核菌)を増やす原因にもなります。
そのため、結核の治療時には、患者さまの服薬を支援する目的で、看護師や医療従事者が薬を手渡し、目の前で薬を飲んでいただく「対面服薬指導(DOTS)」という方法を行います。

服薬期間は、最も標準的な治療で6か月です。重症の場合や、治療の効果がなかなか現れない場合、免疫を低下させる合併症(HIV、糖尿病、関節リウマチなど)がある場合などは、さらに3か月延長し、合計9か月間の治療を行う場合もあります。再発の場合には、さらに長期間の治療が必要になる場合もあります。

肺結核の予防

感染症である肺結核は、誰でも罹る可能性があるため、日頃からの予防対策が重要です。
肺結核の予防には、以下のような方法があります。

予防接種(BCG)

結核を予防するワクチンで、日本では1歳までに接種を行うことが義務付けられています。標準的な接種時期は生後5か月~8か月頃です。
残念ながらBCGを接種しても結核に感染することはありますが、重症化しやすい乳幼児期に接種をしておくことで、万一、感染した場合でも、結核の発病を約50~70%、髄膜炎のような重篤な状態を60~70%程度予防できると報告されています。ワクチンの効果は10~15年程度続くと考えられています。

定期的な健康診断

肺結核は、発病初期は風邪のような軽い症状で、気付かない間に進行する恐れがあるため、学校や職場などで行われる健康診断(胸部レントゲン検査)で、一年に一回程度、定期的に肺の状態を確認することが大切です。
万が一、肺結核が見つかった場合でも早期に発見し、軽症のうちに治療を開始すれば完治が可能で、周囲への感染拡大も防ぐことができます。

咳エチケット

肺結核は、咳やくしゃみなどの「しぶき(飛沫核)」に含まれる菌を吸い込むことで感染するので、特別、風邪のような症状がない時も、職場や学校、電車内などの人が多い場所では咳やくしゃみなどが人にかからないよう、日頃から気を付けましょう。

≪参考≫正しい咳エチケットの行い方

  • マスクを着用する(鼻からあごまで隙間のないよう、正しく着用する)
  • ティッシュやハンカチなどで口や鼻を覆う
  • 上着の内側や袖で覆う

接触者健診

実際に、家族や知り合いなどが肺結核を発病された場合には、周囲の方も感染してしまっている可能性があります。保健所では、感染拡大による集団発生などを防ぐため、接触した方の中から新たな感染者や感染源となった人を見つける「接触者健診」を行っています。
接触者健診では、詳しい聞き取り調査が行われ、接触の程度や接触した方の体調などに応じて血液検査、胸部レントゲン検査などを行います。

潜在性結核感染症治療(科学予防)

万一、健診などで結核菌の感染が判明した場合でも、発病していなければ健康に問題はなく、周囲に感染させる心配もありません。
ただし、最近結核に感染した人(2年以内)や、病気の治療で免疫抑制剤を使用している方などは、今後、結核を発病するリスクが高いことから、発病の確率を下げる予防措置として、抗結核薬の内服を行う場合があります。
発病していなければ体内の細菌数も少ないため、通常は抗結核薬(イソニアジド)を単独で使用します。6か月~9か月服用することで、発病リスクを50~70%程度低くすることができると言われていますが、飲み忘れがあると、薬剤耐性ができ、思ったような効果が得られなくなってしまうので、適切な服薬管理(DOTS)のもと、治療を行うことが大切です。

よくある質問

感染後、結核を発病しやすい人はいますか?

結核は、感染しても発病するのは10人中3人程度です。乳幼児期や思春期に発病しやすいと言われているほか、身体の免疫が低下していると発病する可能性が高まることから、以下のような条件に当てはまる場合には、特に注意するようにしましょう。

  • 過労や不規則な生活が続くなど、ストレスが多い
  • 糖尿病やじん肺などの持病がある
  • 胃潰瘍や胃の切除手術を受けたことがある
  • 手術を受けた後、体力が回復していない
  • 病気の治療で、ステロイド剤や抗がん剤を使用している
  • HIVなどの免疫不全の病気がある
  • 過去に結核にかかったことがある、もしくは結核が治った跡がある

結核を発病した場合、会社や学校はいつから行くことができますか?

結核は、学校保健安全法において「第二種感染症」に指定されています。
発病した場合には、学校医やその他の医師が感染の恐れがないと認めるまで(目安は3日連続して喀痰の塗抹検査が陰性になるまで)出席停止となります。それ以降は、抗結核薬の服薬中でも登園・登校が可能です。
成人の場合、それぞれの職場の規則に従うこととなりますが、職場内感染を防ぐためには、学校保健安全法の基準と同様の対応が必要と考えられています。

肺結核で入院が必要になるのはどんな時ですか?

発病時の症状が重い場合や、重い合併症がある場合には入院して治療を行います。
また、咳症状が強く、たくさん排菌(菌を排出している)している場合も、周囲に感染を広げるリスクが高いため、入院していただく必要があります。

入院中は、しっかりとした服薬管理(DOTS)のもと、抗結核薬による治療を行います。
通常、2~3か月程度の治療を行うと、菌の活動は停止します。服薬管理がしっかりできると判断された場合には、退院して外来で治療を継続することになります。
ただし、治療効果が思わしくない場合は、引き続き入院して治療を行う必要があり、稀ではありますが、薬物療法の効果が見られない場合には、外科手術を行うようなケースもあります。

  • 当院では、入院が必要と判断した場合、速やかに近隣の提携病院を紹介させていただきます。