• 当院の健診でもよく行われている採血項目である“NT-proBNP”について詳しくお話をします。
    心臓から分泌されるホルモンの一種で、心臓に負担がかかるとこのホルモンが血液中に多く分泌されます。そのため、このNT-proBNPの値を調べることで心臓の状態を評価することができます。

検査の目的・NT-proBNPの値でわかること

心不全の診断

心不全とは心臓が十分な血液を全身に送り出せなくなる病気です。NT-proBNPの値が高いと心不全の可能性が高くなります。

心不全の重症度の評価

NT-proBNPの値が高いほど、心不全が重症である可能性があります。

治療効果の判定

心不全の治療中の方でNT-proBNPの値が低下すれば、治療効果が期待できます。

予後の予測

NT-proBNPの値が高いほど、将来、心血管系のイベント、心不全の悪化や心筋梗塞などが起こるリスクが高くなる可能性があります。

どんな人がこの検査を受けるとよいのか?

以下のような症状がある方は検査をおすすめします

  • 息切れ、むくみなど心不全を疑う症状がある方
  • 症状がなくても高血圧や糖尿病、脂質異常症など、心不全のリスクが高い方
  • 心臓に異常が見つかった方

実際の検査は通常の血液検査と同じで、特別な準備は必要なく行えます。よく似たものにBNPという検査がありますが、採血後に冷やす必要があるなど不安定になりやすいため、当院ではNT-proBNPを採用しています。

日本心不全学会では心不全診療に関するステートメントとして、血中BNPやNT-proBNPを用いる際の留意点をまとめており、2023年に改定されています。主な内容としてはカットオフ値が変更になりました。

NT-proBNPの基準値

55未満 心不全の可能性は極めて低い
55〜125 心不全の可能性は低いが、経過観察が望ましい
125〜300 軽度の心不全の可能性があるため、精密検査や経過観察が必要
300〜900 治療の対象となる心不全の可能性があり、精密検査や専門医受診を推奨
900以上 緊急で治療の対象となる心不全の可能性が高く、精密検査や専門医への紹介が必要

ただし、この数値は高齢であったり腎機能が悪いと上昇することがあります。また、一般的に女性は男性より高く出やすく、肥満の方では逆に低く出やすいといわれています。そのため数値だけでなく、患者さんの症状や背景、他の検査(レントゲン、心電図、心エコーなど)と組み合わせて臨床的な所見とあわせて判断します。NT-proBNPの値が少し高いからといって、必ずしも心疾患があるわけではありません。

心不全の治療中の患者さんでは採血で経過を追うことが多いですが、日々の変動が大きいため、「値が高くなった」と判断するのは前回に比べて3割以上、上昇した場合など、何らかの原因がある可能性を考えることが多いです。

健康診断を受けたら

健康診断などでもNT-proBNPは検査項目としてあります。55未満の方であればまず心配はないでしょう。ただ125を超える場合、症状がなくても心不全の可能性があるため循環器内科の受診をお勧めします。

実際に心不全で通院されている方は、採血の項目を以前と比較することで「あのときは調子が悪かった」などの判断材料にもなります。もし分かりにくいことがあれば主治医の先生に相談してみてください。