• 皆さんの身近にも、帯状疱疹にかかったことがある、という方は多いことでしょう。特に高齢者が罹患した場合など重症になってしまい、後遺症に長く苦しむ方もいらっしゃいます。

    「痛みが出現して数日後になってようやく発疹が出てくる」といったように、発疹が出てくるまでに時間がかかることもありますが、まずは疑いを持って早く受診することが、早期の治療につながります。
    予防のためのワクチン、特に不活化された「シングリックス」は効果が期待されるため、基礎疾患のある方はもちろん、そうでない方にもおすすめしています。

帯状疱疹(たいじょうほうしん)とは?

帯状疱疹は、水ぼうそうの原因菌「水痘・帯状疱疹ウイルス」が再活性化することによって発症する皮膚疾患です。
子どもの頃にかゆみを伴う小さな発疹(水ぶくれ)ができる「水ぼうそう」に罹った経験がある人も多いのではないでしょうか。しかし、水ぼうそうが治っても原因菌の「水痘・帯状疱疹ウイルス」は、体の中から出ていかずに神経に潜んでいます。

帯状疱疹を発症する人の年齢層は60代を中心として、50代~70代の中高年に多くみられます。ただし、40代以下の発症は30%程度存在し、小中学生でも発症することがあります。

帯状疱疹を発症する可能性がある人

帯状疱疹は、既に体内に「水痘・帯状疱疹ウイルス」を持っている人が発症する病気です。
つまり、過去に「水ぼうそうになったことがある人」なら、どなたでも発症の可能性があります。
国立感染症研究所によると、85歳以上の約半数が帯状疱疹を経験しており、80歳までに推定で3人に1人が経験すると報告しています*1。

*1(参考)帯状疱疹ワクチン ファクトシート平成 29(2017)年2月10日 P.2|国立感染症研究所
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000185900.pdf

 帯状疱疹の症状と合併症・後遺症

帯状疱疹は、名前の通り、神経に沿って帯状に皮膚症状が現れます。

(図)帯状疱疹

帯状疱疹の症状

帯状疱疹でみられる症状には、次のような特徴があります。

  • ピリピリ・チクチク・針で刺されたような痛み(神経痛)
    ※「皮膚の違和感」「しびれ」「虫刺されのようなかゆみ」から「焼けるような痛み」まで、痛みの強さには個人差がある。
  • 赤い発疹
  • 症状が体の片側のみ現れる

なお、赤い発疹が現れる数日~1週間前あたりから、皮膚の違和感・ピリピリ感を自覚することがあります。

皮膚症状の現れやすい部位

帯状疱疹による皮膚症状は、特に上肢(腕・手)から胸背部(胸周り)に多く、目の周り(顔面)にもよくみられるなど、上半身への出現が半数以上です。
ただし、皮膚症状が下半身に出現することもあります。

(図)帯状疱疹による皮膚症状が出やすい部位

帯状疱疹による皮膚の経過

帯状疱疹による皮膚症状は、次のような経過を辿ります。

  1. 赤い発疹
  2. 水ぶくれ(粟粒くらい~小豆大くらいの大きさ・真ん中にくぼみがある)
  3. 水ぶくれが破れ、ただれる
  4. ただれた部分が「かさぶた」になる ※適切な治療を受けていれば、赤い発疹が現れてから1週間~10日程度
  5. かさぶたが自然にはがれる※発症から2週間~1か月程度で治る。
    かさぶたを無理に剥がすと、痕が残る原因となるため、やめましょう。

帯状疱疹の合併症

赤い発疹とともに、軽い頭痛や発熱が現れることがあります。
また、目の近くに帯状疱疹が現れると、目にも影響が及ぶこともあります。
視力の低下・充血・異物感などが現れる「角膜炎」や、目の充血・まぶたの腫れ、涙が増えるなどの「結膜炎」を引き起こす恐れがあります。
まれに、顔面神経の麻痺が起こり、突然顔が動かしづらくなる病気「ハント症候群」を引き起こします。ハント症候群では、顔面神経からの枝分かれが影響して、耳鳴りや難聴、味覚障害などの症状を伴うことがあります。

帯状疱疹の後遺症

帯状疱疹では、皮膚症状が治れば痛みも消えます。
しかし、急性期の炎症が強く、神経に深い損傷を与えてしまった場合、ピリピリ・チクチクする神経痛が皮膚症状の治癒後も続いてしまう「帯状疱疹後神経痛」となることがあります。

帯状疱疹後神経痛に移行してしまった際には、鎮痛薬などできるだけ痛みを軽くする対症療法を行います。長引く痛みでうつ状態になる場合もあるので、その際には抗うつ薬を用います。
なお、帯状疱疹後神経痛は、皮膚症状が重症だったり眠れないほどの強い痛みがあったりするときや60歳以上の高齢者に起こりやすいので、早めの対処がポイントです。

帯状疱疹の原因

帯状疱疹の原因は、「水痘・帯状疱疹ウイルス」です。
水痘・帯状疱疹ウイルスは、初めて感染すると「水ぼうそう」として発症します。
水ぼうそうは主に10歳以下のお子さんにみられる感染症です。2014年より乳幼児に対するみずぼうそうの予防接種が定期接種化(1歳代で2回接種)されたので、近年の発生数は大幅に減少していますが、日本人の多くがこのウイルスの抗体を保有しています*2。

*2(参考):年齢/年齢群別の水痘抗体保有状況2017年|国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/8132-varicella-yosoku-serum2017.html

しかし、このウイルスは厄介なことに水ぼうそうが治った後も体内からいなくならず、体の中の神経節に潜んでいるのです(潜伏感染)。
普段は免疫で抑えているので症状は現れませんが、何十年と潜み続け、何かのきっかけでウイルスに対する免疫力が低下すると、潜伏していたウイルスが再び活性化して発症します。

この免疫力の低下を引き起こす発症のきっかけには、次のようなものがあります。

  • 加齢(50歳以上)
  • 疲労・ストレス
  • 重症な感染症や悪性腫瘍などの病気
  • 免疫抑制剤・抗がん剤の使用
  • 過度な紫外線暴露

帯状疱疹の検査・診断

帯状疱疹が疑われる場合、次のような診察・検査から診断します。

問診・臨床症状

問診では「過去に水ぼうそうになったことがあるか?」という点をお伺いします。また、帯状疱疹特有の症状(神経に沿った痛み・発疹)や発症に繋がるような要因(加齢・ストレスなどによる免疫力の低下など)について確認させていただきます。

血液検査や病理検査

単純ヘルペスなど似たような症状が現れる疾患との鑑別のため、血液検査や病理検査を行うことがあります。

帯状疱疹の治療

帯状疱疹の治療では、薬物療法を行います。
抗ヘルペスウイルス薬は、発症初期ほど効果が出やすいお薬なので、痛みや発疹がみられたら早めに受診してください。
ただし、効果が現れるまで2日程度時間がかかるお薬でもあります。
効かないからと、自己判断で中止したり倍量を服用したりしないようにしましょう。

抗ヘルペスウイルス薬

ウイルスの増殖を抑えるお薬です。炎症を抑えて早く治す効果のほか、合併症・後遺症の発生を抑える効果も期待できます。
アメナリーフ®(錠剤)・アシクロビル®(錠剤)・バラシクロビル®(錠剤・顆粒)など
※発疹が現れてから、3日以内の服用開始が望ましい(遅くとも5日以内)。

消炎鎮痛剤

帯状疱疹による痛みを抑えるお薬です。
通常、アセトアミノフェンや非ステロイド性鎮痛薬を使用します。
重症例では、ステロイドを使用することがあります。
帯状疱疹後神経痛では、トリプタノール錠®、プレガバリン®・リリカ®などを使用します。

ほかにも、痛みの緩和として「神経ブロック注射」による治療もあります。神経や神経の周りに局所麻酔薬を注射して、痛みの伝わる経路をブロックします。
帯状疱疹による強い痛みは、「帯状疱疹後神経痛」へ移行する危険分子とされているため、痛みを我慢せず、早めに治療で緩和したほうが、後遺症リスクを下げることに繋がります*3。
※当院では行っておりません。

*3(参考)帯状疱疹後神経痛予防のための神経ブロックの有効性|日本ペインクリニック学会
https://www.jspc.gr.jp/mass/mass_clin-res01.html

帯状疱疹に対する治療中の注意点

帯状疱疹の治療にあたり、気を付けたい5つのポイントがあります。

  • 体だけでなく、精神的にもリラックスして、しっかり安静する
    十分な睡眠やバランスの良い食事を摂って、ゆったり過ごす。
  • 痛みを和らげるためには、温めた方が良い
    痛いからと言って冷やすことは、痛みに繋がります。熱すぎないお風呂に入って、ゆっくり温めると、痛みの軽減が期待できます(ただし、入浴は最後にする)。
  • 水ぶくれを破かない 無理に水ぶくれを破くと、細菌感染を起こす恐れがあるのでやめましょう。
    また、水ぶくれの液体の中には、水痘・帯状疱疹ウイルスが含まれているので、水ぼうそうに罹ったことがない人にはうつる可能性があります。
  • 乳幼児・妊婦・免疫不全の人との接触は避ける
    水ぼうそうに罹ったことがない人以外に、妊婦さん・赤ちゃん(特に早産児・低出生体重児)、免疫不全の方などで免疫力が下がっている人も、発疹を触ったり感染者と同じ部屋にいたりするとうつり(空気感染)、重症化する可能性があります。

帯状疱疹の予防

  • 帯状疱疹は、免疫力の低下を防ぐための体調管理以外に、ワクチン接種で予防することが可能です。

ワクチン接種(予防接種)

2016年より50歳以上の方に、水痘・帯状疱疹ワクチンが任意接種(自費)で行えるようになっています。現在、帯状疱疹のワクチンには「生ワクチン」「不活化ワクチン」の2種類があります。
当院では、帯状疱疹ワクチン2種類とも取り扱っていますので、希望の方はご予約ください。負担は大きくなりますが、高い効果が期待できる不活化ワクチン(シングリックス)を推奨しています。なお、名古屋市に住民登録のある50歳以上の方には帯状疱疹ワクチンの費用助成がありますので、ご利用ください。

水痘ワクチン(生ワクチン:ビゲン)

弱毒化された生きたウイルスが含まれる。従来から小児に使用している水ぼうそうワクチンだが、2016年から帯状疱疹予防としても認可された。
【接種回数】1回
【接種方法】皮下接種
【効果の持続期間】約5年*4

*4(参考)帯状疱疹ワクチンの使用に関する推奨事項に関する最新情報|CDC(アメリカ疾病予防管理センター)
https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6333a3.htm

シングリックス(不活化ワクチン)

帯状疱疹予防に開発された新しいワクチン。2017年にアメリカのFDA(米国食品医薬品局)で認可され、日本では2020年に発売された。感染する能力を失わせたウイルス(不活化)を原材料としており、生ワクチンよりも生み出される免疫力が弱いので2回接種が必要となる。そのため、生ワクチン接種と比べて高額となるが、効果は高いとされている。
※アメリカの調査によると、2回接種した50~69歳までの97%、70歳以上の91%に帯状疱疹の発症予防の効果があったと報告されている*5。

*5(参考)帯状疱疹予防接種|CDC
https://www.cdc.gov/vaccines/vpd/shingles/public/shingrix/index.html?CDC_AA_refVal=https%3A%2F%2Fwww.cdc.gov%2Fvaccines%2Fvpd%2Fshingles%2Fpublic%2Findex.html

【接種回数】2回
【接種方法】筋肉内注射
【効果の持続期間】9年(まで確認済)*6

*6(参考)高齢者における9年目までの補助水痘帯状疱疹ウイルスサブユニットワクチンに対する免疫応答の持続性|Schwarz TF, et al.: Hum Vaccin Immunother., Published online: 21 Mar 2018
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6037441/

 

名古屋市では全国的にも数少ない「帯状疱疹予防接種の費用助成」が行われています。
名古屋市に住民登録のある満50歳以上の方が対象となります。
当院は「名古屋市の指定医療機関」として登録されていますので、ご希望の方は「助成利用」とお申し出の上、ご予約ください。

予防接種ページはこちら>>

免疫力低下を防ぐための体調管理

加齢に伴い、正常に働く免疫細胞が減ったり免疫細胞自体の機能低下が起こったりするため、年を重ねるにつれて免疫力が落ちるのは、ある程度致し方ありません。
とはいえ、免疫力の低下が帯状疱疹の発症のきっかけとなるため、日ごろから体調を整えておくことが大切です。
ストレス発散・適度な運動・栄養バランスを考えた食事・十分な睡眠など、毎日のちょっとした心がけが発症予防につながります。

よくある質問

帯状疱疹のウイルスは、いつまで注意すれば良いですか?

水痘・帯状疱疹ウイルスは、水ぶくれの中の液体に含まれています。
そのため、全ての水ぶくれがかさぶたになるまで、他人への感染に注意が必要です。

帯状疱疹は再発しますか?

帯状疱疹になった人は抗体を保有することになるので、通常は抗体などの免疫機能が働き、残ったウイルスの再活性化(再発)を抑えられます。
しかし、加齢・疲労などにより免疫力が低下すると、中には再発する人もいます。
宮崎県で行われている調査によると、再発率は6.4%で60歳以上の女性に多くみられたと報告されています*7。

*7(参考)帯状疱疹の宮崎スタディ|モダンメディア66巻9号2020
https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/1-14.pdf

帯状疱疹の予防接種と他のワクチンとの接種間隔を教えてください。

帯状疱疹のワクチンの種類によって、他のワクチンとの接種間隔は異なります*8。

*8(参考)ワクチンの接種間隔の規定変更に関するお知らせ|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou03/rota_index_00003.html

<帯状疱疹ワクチンが生ワクチン(ビゲン)の場合>

新型コロナウイルスワクチン
→同時接種不可・どちらか接種2週間後から可能*9

*9(参考)新型コロナワクチンQ&A|厚生労働省
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0037.html

不活化ワクチン(インフルエンザワクチン・肺炎球菌ワクチンなど)
→接種間隔の制限なし
他の生ワクチン(MR麻疹・風疹ワクチンなど)
→27日以上間隔を空ける

<帯状疱疹ワクチンが不活化ワクチン(シングリックス)の場合>

シングリックスは2回接種が必要です。
2回目は、通常1回目接種から2か月後に行います。
※何かの事情で2か月を超えてしまう場合でも、1回目から6か月以内に接種が必要。
新型コロナウイルスワクチン
→同時接種不可・どちらか接種2週間後から可能
不活化ワクチン(インフルエンザワクチン・肺炎球菌ワクチンなど)
→接種間隔の制限なし
他の生ワクチン(MR麻疹・風疹ワクチンなど)
→接種間隔の制限なし

水ぼうそうの罹患歴や水ぼうそうワクチン接種歴が曖昧の場合、「水ぼうそうワクチン接種」をした方がよいのでしょうか?

はい。過去の罹患歴や接種歴が曖昧な場合にも、ワクチン接種が推奨されます。
水ぼうそうは予防接種が普及したことにより、昔と比べて発症者が減っていますが、完全にこの世の中からなくなった訳ではありません。免疫を持っていなければ、誰でも感染する可能性はあります。患者さんが減っている今こそ、「水ぼうそうの免疫を持つ = 予防のための水ぼうそうワクチン接種」が重要となります。
特に成人の水ぼうそう感染は重症化しやすいことから、ワクチンによる予防が望まれます。